「香り」という要素にとても惹かれる
こころに残る記憶には、いつも「香り」がある
両親が花屋を営んでいたことから、
小学生の頃より 夕飯の支度を任されていた
家族に喜んでもらえることが嬉しくて、
ありったけの工夫を重ねてきたように思う
あるとき、あたりまえに使っていた「胡椒」をそのまま食べてみた
味としてではなく「香る」という要素に、衝撃を受けたことを覚えている
それからはひたすら
素材や調味料、まずそのものを知りたいと思うようになる
口にしたとき、味・食感とともにある「香り」に夢中になった
頭の中の引き出しは、
いつしか「香り」でいっぱいになった
今、料理を組み立てるとき
まず最初に手をかけるのは「香り」の引き出しであることが多い
イメージを広げ、さまざまな要素を繋げてくれる
わたしにとって、言葉よりも早くて正確なもの
自由になれるもの
香りからひろげた 食事会「Fragant」は
会場である 1 ROOM COFFEEさんの「香ばしさ」へそのまま連なる
店の扉をあけると、
珈琲の香ばしさとともに 店主の穏やかな笑顔がある
珈琲豆の焼き色、その香りは
秋、すこしづつ移ろう紅葉へ重なり
野菜たちも、夏の瑞々しい緑からこっくり甘い紅葉色へ
肌寒さとともに人恋しくなる心に
その笑顔に沿うように、秋
料理は五感で味わい、愉しむもの
そんななか、意識の外へいってしまいがちな「聴く」ということへも連ね
ユキシュンスケさんに、この食事会のテーマを伝え
「fragant」へよせた音楽の制作をお願いする
ユキさんは、過去にも夕顔の料理へよせ
楽曲提供をしていただいている音楽家さん
入口である、珈琲の香ばしさ
甘味と食後の飲み物は1ROOM COFFEEさんによる
「香ばしの」珈琲をふんだんに
この日のために、AS.CRAFTさんに重厚感のあるダイニングテーブルを提供いただく
1ROOMさんのテーブルのつくり手である、AS.CRAFTさん
焼き目のように濃く深い天板には、香ばしの花と実を
わたしは、
空間、時間、季節、を繋ぐように
香ばしの料理を作りました
会場には「Fragant」が流れる
うつろう紅葉
愛(め)で 深まる秋
耳に残るのは 人肌に似た温かさ
甘く 香ばしく 漂い、
味わう
Fragant (フラガント 西 ) : 香ばしい 香り豊かな
品書き
・食前酒 Fragant
スペインの白ワインに
シナモン、クローヴ、洋梨を漬け込みました。香るサングリア
・干柿と里芋の炙り白和え
こっくりとした甘みと滋味、
焼き色を付けた木綿豆腐が包む香ばしさ
・秋野菜の焙じ茶葛あん
深まる秋をなぞるように
秋茄子、秋牛蒡、新蓮根、蔓紫を
焙じ茶の香りを立てたかつお出汁で炊き上げました
・秋鮭の赤味噌と秋果実のソース
香る芳醇。脂の乗った秋鮭を香ばしく揚げ、
八丁味噌と果実のソースを合わせました
・長芋と芹の炊き込みご飯
長芋の皮目と炊きあがりの香ばしさ。芹の清涼感を添えて
・蕎麦茶のお吸い物
蕎麦茶と昆布出汁、お醤油をすこし コクと香味を召し上がれ
・香の物
秋人参の塩揉みと、二十日大根の甘酢漬け
紅葉色と、豊かな歯触りをご飯とともに
・甘味
エスプレッソパルフェ
エスプレッソ香るアイスデザートに、胡桃のキャラメリゼ
・珈琲
マイルドでコクがある、しっかりとしたビターな香ばしの一杯です
..
秋が過ぎ、
季節は冬になってしまったけれど
記したかったこの食事会のこと
書けてよかった
最後になってしまいましたが
お越しくださいましたみなさま、
香ばしの時間をともに創ってくださった
ユキシュンスケさん、
AS.CRAFTさん、
本当にありがとうございました
香りは
言葉よりも早く、深く、
またひとつ 残ってゆく
..
撮影:ユキシュンスケ