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五味五感の食事会:ルポルタージュ

 

 

 

 

 

『夕顔』の屋号で季節の料理をつくる藤間夕香さんと、

『手創り市』を主宰する名倉哲さんによる『五味五感展』が、

第1回目から7年の時を経て再び開催された。

昨年11月に静岡県のキャトルエピス富士店から始まり、

今年1月には、東京都のnice things. STORY

そして2月に栃木県のpejite益子店を巡回した。

 

 

 

 

 

『五味五感展』では、

ものづくりの作家による器やカトラリーなどの作品と

山口洋佑さんの料理の絵の展示会が行われた。

イラストレーションを手掛けた山口洋佑さんは前展も含め、

長年夕顔さんの料理を描いてきた。

今展も新たな季節の料理を描き、メインビジュアルとなっている。

山口さんの絵を前に想像する。

描かれた食材を頼りに季節、味、香り、歯触り、温度…口に入れたかのように、

いつのまにか舌の上で広がるよう。

見る絵、見る人によって“五味五感”は無限に広がる。

 

 

 

ユキシュンスケさんも山口さんと同じく、

長く音楽で夕顔さんの料理、情景、季節を表現しており、

食事会では欠かせない存在だ。

そんなユキさんが作った五味五感のサウンドトラック。

夕顔さんが料理を作っている情景も反映された楽曲になっているように感じた。

繊細なメロディーが、

丁寧な作業の積み重ねで出来上がる夕顔さんの料理に重なって思えたからだ。

音で表現された“五味五感”は、空間に漂い、やがて時間となって耳に届き、

意識せずとも私たちのなかに残る。

 

そして、普段から夕顔さんの愛用している器やカトラリーをつくる

8名の作家の作品が並ぶ。

陶磁器、木工、ガラス、金工の作家たちの様々な作品を手に取って、

眺め、盛り付ける料理や食卓に並べることをイメージする。

 

見る(絵)、聴く(音楽)、触れる(器・カトラリー)、

味わう、香る(料理/五味)、

これら“五味五感”が夕顔さんの料理によって繋がれる。

その体験の場となる食事会が会期中に各会場で開かれた。

 

 

 

 

 

pejiteの食事会が行われた日は、寒波の影響で雪が降り積もっていた。

地元の人たちは、「こんなに雪が降ることは珍しい」と口を揃える。

けれど、このような雪が舞う幻想的な雰囲気がpejiteにぴったりである。

電球を変えるのにひと苦労も、ふた苦労もするのであろうと想像がつく、

高い高い天井。

趣のある壁や梁は、

以前、酒米を保存する蔵として使われていた当時のままだという。

それらに調和するように、

アンティークの家具や器、洋服、装身具などが並ぶ。

そんな店内の中央に重厚感のある10人掛けのアンティークの長テーブルが現れた。

pejite店主の仁平透さんが今展の食事会のために特別に用意したものだ。

夕顔さんが、木の枝やキャンドルでテーブルをしつらえれば、

そこは夕顔の空間となる。

それらを目にした食事会の参加者たちからは、ため息が漏れる。

会場では、

ユキシュンスケさんによる本展のためにつくられたサウンドトラックが流れる。

入り口の電気が消されることを合図に食事会の幕が上がる。

まずは、夕顔さんからの挨拶。

 

 

 

 

「五味とは、基本の味である甘味・酸味・塩味・苦味・旨味です。

食事を愉しむ時間は、見て・聴いて・触れて・味わい・香ること。

料理を味わう愉しみは、まさに五味五感に溢れるものと感じます。

さらに、密に愉しく日々へ繋ぐと、料理は絵となり、音となり、

愛用のカトラリーへ、そして空間まで広がります。

わたしは、季節と日常のなかに見る、心動く情景を料理にうつしています。

香り・味わい・姿、彩り・温度・気配のようなもとして、料理にしています。

耳をすますと、肌から香りから様々な表情を見せてくれる季節。

季節もまた、五感で感じ、味わうものですね。

五味五感をどうぞお愉しみください。」

 

 

 

 

香湯 / 冬の静寂へよせて

 

片口:松本美弥子

茶杯:田村文宏

盆:pejiteオリジナル

 

 

夕顔さんの食事会ではいつも最初に出される香湯。

食事会のイメージを香りで表したもので、

今回は、白湯に3種のスパイスが香りづけられている。

片口から茶杯へ注がれた香湯を、

夕顔さんが席をまわって一人、一人にサーブする。

参加者たちは、まずは香りを聞き、そっと口に含む。

ほんのり甘さがあって、きっと知っている香りがブレンドされている…。

時間をかけて香湯を味わい、香りを記憶の中から探る。

五感で、目の前の一皿と向き合う時間が始まった。

香湯は、その入り口となっている。

 

 

ドリンクは、三浦侑子さんのワイングラスに用意された。

ぽってりとした色気のあるフォルムでありながら、

上品さも感じるグラスの登場に「素敵!」と参加者から歓声が上がる。

食事会への気持ちがさらに高まる。

 

 

 

 

 

 

一の料理

林檎と里芋、牛蒡の番茶オイル和え / 観る一皿

 

ガラス八角皿:liir 森谷和輝

箸:只木芳明

銀彩プレート皿:松本美弥子

 

 

 

《 冬根菜の滋味に林檎の紅を差す。自家製番茶オイルの香味が、

里芋の円やかさ、牛蒡の歯触り、林檎の甘酸を立て、なめらかに伝う 》

 

料理の盛付けと仕上げを夕顔さんが参加者の目の前で行う。

夕顔さんの動きに合わせて参加者たちも視線を動かす。

こんなにも視線を浴びているのに、

まるで夕顔さんだけ別の次元にいるかのように手元に集中している。

右手の盛箸で食材を掴み、

左手をそっと添えて1枚ずつ大皿に盛りつけていく様子は、絵を描いているよう。

盛箸と菜箸は、只木芳明さんにより今展と食事会のために特別に作られたものだ。

参加者に配られた食事用の箸、

盛箸、菜箸、すべて異なる繊細な飾りが施されている。

盛箸は、食事用の箸よりも長く、菜箸よりも短い。

夕顔さんの所作をより美しく見せる。

葉が色づき、季節が移り変わっていく情景が皿の上に出来上がる。

料理の説明のあと、夕顔さんからの「召し上がれ」の言葉で食事が始まる。

味わい、歯触りが異なるそれぞれの食材が個性を守りつつ、

柔らかな香ばしさの番茶オイルによってひとつにまとまる。

最後のひとくちをどの食材で締めるかが、迷うところだ。

 

 

 

 

 

 

二の料理

白の冬野菜 みぞれ炊き / 聴く一皿

 

真鍮匙:yuta 須原健夫

鉢:田村文宏

 

 

 

《 冬の白い静寂。その風情を料理へ宿す。

カリフラワー、長芋、お葱の白を、透き通るような旨味の昆布出汁で炊く。 

みぞれ、氷を模した大根で、野菜の輪郭に、そっと冬が降るように仕立てました 》

 

夕顔さんが指先から冬を降らせるように、

薄く切られた大根と大根おろしを盛り付ける。

今日のような、

しんとした冬の静けさの情景そのものというようなひと皿が出来上がった。

大根おろしを匙で掬うと、クミンがふわりと香る。

大ぶりの野菜たちは、“冬を頬張る”という言葉がぴったりな食べごたえ。

野菜に染み込んだお汁がじゅわりと口に広がる。

旨味の出汁に魅了され、お汁を掬う手が止まらない。

 

 

 

 

 

三の料理

旬魚と芋餅の蒸し物 月桃茶あん / 香る一皿

 

グレー大皿:SŌK 鈴木絵里加

銀彩大皿:松本美弥子

 

 

 

《 ショウガ科の植物・月桃。

その神秘的な香りを冬の神聖な空気に連ね、

じゃが芋の自然な甘みを生かした芋餅と、真鯛の上品な味わいを包みました。

蒸した湯にも、あんにも、月桃葉の茶。香りの魔力、料理へ繋ぐ 》

 

夕顔さんが鍋から熱々のあんを掬い、皿に広げ、

その上に蒸したての芋餅を皿に載せていく。

一体どんな料理が運ばれてくるのか?

参加者たちの視線は、ますます夕顔さんの手元に注がれる。

もっちりとした芋餅と上品な真鯛をあんに絡めていただくと、

まろやかな味わいが口に広がって、思わず目を細める。

添えられた塩に引き締められる味わいも、また良し。

捉えられそうで、捉えられない、奥深い月桃の香り。

もっと、月桃を知りたい、味わいたい。

 

 

 

 

 

四の料理

百合根と蓮根、木の実のちまき / 触れる一皿

 

平皿:SŌK 鈴木絵里加

 

 

 

《 湯気に触れる。冬の御馳走。

真白の百合根、蓮根の歯触り、砕いた木の実の円やかさ。

そしてバターをひとかけら。餅米とともに素材がふっくら蒸しあがる。

一粒、一粒の輝きを、湯気とともに召し上がれ 》

 

参加者の元へ平皿だけが配られる。

「蒸したてのちまきをご用意いたします」と告げられると、

参加者の目が期待に満ちる。

夕顔さんが席をまわり、一人、一人にちまきをサーブする。

どきどきしながら開いた竹皮からは、百合根がこぼれ、歓声が上がる。

4皿目というのに、また胃がパカッと開いたような食欲そそるバターの香り。

ちまきにアーモンドが入っている新鮮さ、初めて食す百合根の美味しさ。

夕顔さんの食事会は、こうした食材との出会いや発見が度々あり、

長年苦手と感じていた野菜の美味しさに初めて気づかされたこともある。

指先に、バターの香りが残る。

 

 

 

 

 

 

甘味

冬の連なり  牛乳羹と柚子羹 洋梨のソースに生姜蜜を合わせて / 味わう一皿

 

銀彩縁のガラス皿:liir 森谷和輝

真鍮姫フォーク:yuta 須原健夫

 

 

 

《 氷のように透き通る風情と、冬果実の味わいを重ねました。

透明な柚子羹・その風味を引き立てる牛乳羹のコク。

清々しい芳香の洋梨に、生姜をしっかり利かせた蜜の妙。

冬の味わいは、幾重にも重なり、豊かに溶け合う 》

 

柚子羹の上に蜜をかけ、その上にそっと載せられた柚子の皮。

まるで、色づいた葉が氷の上に舞い落ちたよう。

柚子のさわやかな酸味、まろやかな牛乳羹、

上品な洋梨のソースを引き締める生姜蜜。

これらが絶妙な調和を生むことに、唸る。

食事会の最後の一皿。名残惜しい気持ちで、そっとフォークを入れる。

 

 

 

 

 

 

 

結びの茶

 

急須・茶海・茶杯:田村文宏

茶荷・茶杓:只木芳明

盆:pejite オリジナル

茶:茶屋すずわ

 

 

立ち登る香り(中国茶の要素)の中に、

旨味と甘み(日本茶の要素)が絶妙なバランスで成り立つ。

親しみを感じながらも、複雑な香味が愉しめる茶。

夕顔さんが茶に求める香味を静岡で古くから茶業を営む、

茶屋すずわさんが特別な『茶』として仕上げた。

 

香りの要素を大事にしている夕顔さんが、

中でも『茶』が香りを愉しむ、最たるものだと感じていると話す。

丁寧な所作で茶を淹れる様子を眺めているこの時間は、

料理の盛付けのときとはまた違う、ゆったりとした時が流れているのを感じる。

茶を淹れる行為は、時の流れを変え、人の気持ちを整えるものなのだろう。

一煎目は80℃の湯で淹れた茶。香りを聞き、口に含む。

これが日本茶?

中国茶のような味わいでありながら、

親しみも感じる新鮮味に参加者から驚きの声が上がる。

そして、二煎目は温度をぐんと上げて90℃の湯で淹れる。

香り高く変化した茶にまた驚く。

茶の新たな発見に、興味を持った人も多くいたのであろう。

食事会後に急須に残った茶葉を興味深く見る人もいた。

これから、夕顔さんは料理と茶が交わる機会を提案していくという。

夕顔さんと茶屋すずわさんからどんな茶がうまれるのか。楽しみでならない。

 

 

 

 

 

食事会は、夕顔さんの挨拶で幕を下ろした。

 

「五味五感の食事会、ありがとうございました。

五味五感でお伝えしたいことを、ぎゅっと込めました。

10年ほど前から、折々に訪れていた『仁平古家具店』さんが営む『pejite』さん。

初めてpejiteさんに訪れた時から、

この空間の持つ厳かな力にずっと魅了されていました。

ですので、この食事会は空間を存分に生かしたく、営業終了後に、

スペース中央に大きな長テーブルを組み、

食事会の場を設えさせていただきました。

テーブル・椅子は、この会のために仁平さんが特別にご用意くださったものです。

器の上から、空間へ、料理に込めた冬の情景を、

五味五感を通し楽しんでいただけていたら嬉しいです。

ものづくりの歴史が脈々と息づく益子の地で、

このpejiteさんで、本展の最終巡回を迎えられたことに感謝しています。

今日皆さまにお召し上がり頂いた料理の器、グラス、カトラリーを含め、

参加作家の作品が展示空間に並んでいます。

また、一の料理、二の料理は山口くんにより描かれています。

味わっていただいてから『あの料理の器』『あの絵』を見ることも、

また贅沢なことと感じます。

 

本日はありがとうございました。

またの季節、皆さまのお顔が見れたら嬉しいです。」

 

 

 

 

仕込みや空間づくりは、食事会前日から行われ、

当日も、朝から夜の開始時間直前まで続いた。

食事会の最中、

夕顔さんはキッチンで次に出す料理の準備を静かに着々と進めていく。

けれどその一方で、全神経を集中させている緊張感と、

高揚感を抑えているであろうことが感じ取れる。

それは、舞台袖で出番を控えている表現者のよう。

舞台に上がれば、いつもの穏やかな夕顔さん。

流れるように、ときに言葉が溢れるように、料理のことを話す。

参加者の前で楽しそうに話している夕顔さんを目にしたとき、

掛けてきた時間と労力に思いを巡らせた。

3箇所を巡る展示会。

その都度行われる食事会では、調理器具を自前で用意していても、

調理する環境が変わればいつもと勝手が違い苦労することもあっただろう。

気温の低かったpejiteの食事会では、

特にいつもより気に掛けることがあったかもしれない。

どんな場所、環境でも料理として最も美味しい瞬間を守りながらも場を作っていく。

そんな中でも、

人々の心に残るような料理、時間、空間を作り上げるには、

大切にしている軸に沿って、

ひとつ、ひとつを丁寧に、寸分のズレなく積み上げていく。

7年前と変わらぬ軸を持ち続けているから、

『五味五感展』を開催できたのだろう。

 

 

 

参加者は、夕顔さんの盛付けの様子を見ながら、

どんな料理で、どんな味なのかを想像する。

料理が出されると、まず姿勢を正し、真っすぐと皿の上の景色を眺める。

一口ずつ、箸の手を止めてゆっくりと味わう人もいれば、

美味しさに黙々と箸を口に運ぶ人もいた。

食べ終わった後に、

皿やカトラリーを下げられるまで手に取ってじっくり見る人もいた。

目の前の一皿と季節に向き合う濃密な時間であった。

 

 

 

 

2月17日をもって3ヶ月に及ぶ『五味五感展』は終了した。

展示期間は、3ヶ月だが企画の構想、料理の試作、

作家たちの制作はそれ以前から始まっている。

夕顔さんからの要望を受けて新作に挑戦した作家も多い。

その内の一人は、初めて大皿の制作に挑んだ。

慣れない制作に試行錯誤を経て、料理が映える素晴らしい大皿が出来上がった。

これからの夕顔さんの料理には欠かせない1枚となったに違いない。

また、食事会では夕顔さんが長年愛用している作品も登場した。

作品の経年変化は、

大事に使っていることはもちろん、その作家への信頼が見て取れる。

こうして共に同じ熱量で挑戦する作家や、

会場となる店との出会いによって成された『五味五感展』。

この7年を経たから魅せられたものがあるのだろう。

 

次回の開催は、また年を重ねて開催されるのだろうか。

そのときは、どんな季節に出会えるのだろう。

 

 

米澤あす香

https://www.instagram.com/asuka.yone/

https://www.recommonword.com/

 

写真:大野写真研究室

 

《》内、料理へ添えた文章:夕顔 藤間夕香

料理写真:名倉哲

共に、五味五感展冊子より

 

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