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言葉からひろがる / 如月

 

 

 

 

 

 

 

2月4(土)5(日)に開催した「 言葉からひろがる / 如月 」

これからも続け、大切に育てて行きたいこの会のこと、

わたしの好きな文章を書く、米澤あす香さんに記事にしていただきました。

またの「言葉からひろがる」にて、

一人でも多くの方とご一緒できますように。

 

 

『言葉からひろがる』は、夕顔さんが企画した、

音楽家の青木隼人さんと共に開かれる料理と音楽を愉しむ会だ。

昨年の夏(文月)に続く、二回目の開催となる。

この企画は、夕顔さんがイメージする開催月の情景を指標に

夕顔さんと青木さんが言葉のやりとりをし、

言葉の連なりを織りなす作業から始まる。

それは、夕顔さんにとっての品書き、青木さんにとっての楽譜となり、

会場の空間をも作り出す。

 

2月初旬、『言葉からひろがる/如月』が開催された。

会場は、中板橋の1ROOM COFFEEさん。

カフェラテなどエスプレッソ系を中心としたドリンクを提供する

コーヒースタンドで、夕顔さんも普段から訪れているお店だ。

客席に言葉の品書きが置かれていた。

二つ折りにされた、

美しいザクロの写真が印刷された半透明の少し厚みのある紙。

開くと品書きとなる第一章から第三章まで

言葉の連なりが書かれた紙が3枚入っていた。

会の始まりに夕顔さんがこう話した。

「普段、誰かと一緒に食事を楽しむこともあると思いますが、

この食事会では、ひとりひとりが耳を寄せるように

料理と音楽に向き合う時間となってほしいです。」

 

照明がほの暗く落とされて青木さんが客席のテーブルの上のキャンドルを灯し、

言葉の品書きの朗読から第一章が始まる。

 

 

『ある冬の夕去り

 

雪が降る前の、あの独特な静寂

陽が落ち、夜になる

少しの間と重なる

 

目に見えるより早く、耳冴える時

 

ゆっくり色を失っていく部屋に

花瓶ひとつ

 

滲む稜線

蛇口から水が一滴

 

灯りをつけると窓ガラスに自分の姿

 

どこにもいかず

ただ、じっと』

 

 

 

青木さんの奏でるクラシックギターは、

子どもの頃の夕方の景色がふと思い出されるような懐かしさを感じる音色。

刻一刻と日が暮れて、色を失っていくような夕暮れ。

青木さんは演奏中、

音や演奏している自分自身にぐっと意識をむけているようだ。

こんなに間近にいるのに見えない壁があって、

違う世界にいるような気さえする。

 

店内のオープンキッチンでは、夕顔さんが調理をしている。

客席からは、高いキッチン台の向こう側の夕顔さんの手元までは見えないが、

絶え間なく動いている様子が見える。

ほどなくして、1ROOM COFFEE店主の内山さんが料理をサーブした。

客席から「わあ」という静かな歓声が起こる。

 

 

『カリフラワー、新じゃが芋、新牛蒡の酒粕和え』。

どっしりとした冬野菜を包み込むような酒粕のまろやかさ。

冬野菜が新酒の酒粕をまとった一皿は、

冬の白い空気や雪が降る前のしんとした外の景色の静けさを見せる。

 

ここで聞こえるのは、青木さんの演奏とぽりぽりと牛蒡を噛む音。

誰もが目の前の一皿に向き合っていることがわかる。

 

 

青木さんによる第二章の品書きの朗読。

 

『気配に目をやると、

今朝は蕾だった花が開いている

 

真白に見えたその花は

内側に、指で押したような紅の模様を持っていた

 

風が強くなった

 

青く、甘く、苦味の混じる匂いが

窓ガラスの隙間から 線のように入り込む

 

匂いは記憶をよみがえらせるが

生まれる前の色はどうしても思い出せない

 

薄い膜の向こうに、仄かな紅

捕まえようと手をのばした途端、

 

雪が降りだす

 

しんしん、

しんしんと』  

                                                                                                           

 

 

第二章では、音楽の時間が長く費やされた。

持続する音と、

反復しながらゆっくり消えていく音がエレキギターとエフェクターで重ねられた。

二つの音が混在するかのようでいて、消えていく…。

どこか不思議な音色でありながら、心地よい規則性が存在するようだ。

ハーモニカの演奏中、青木さんが入口のドアを開けた。

冷たい空気が入る。内と外、二つの世界がじんわり混ざり合うようだった。

 

キッチンからは、カリカリ、カリカリとミルで胡椒をまぶしている音が聞こえ、

料理の仕上げに入っているのがわかった。

 

 

『真鱈のかぶら蒸し』。

白いかぶらあんを食べ進めると、深緑の野菜、そして紅いビーツが現れた。

白から紅への移り変わりは、

外の白い景色から内へと冬が沁みこんでいくことを表す。

場面の移り変わりは見た目だけでなく、食感からも感じられる。

第一章が、歯応えのある食材が使われていたのに対し、

第二章は、柔らかな食感の料理で、舌になめらかさを感じさせている。

 

それと呼応するかのように、

青木さんは楽器をクラシックギターに変え、内へと潜っていくような演奏。

最後はエレキギターで冬を閉じていく様子を旋律的に表現された。

 

 

キャンドルの火がひとつひとつ消され照明が明るくなり、

しんとしていた空気が緩んだのがわかる。

ここで10分間の休憩。

 

参加者同士が喋ったり、休憩したりと思い思いに過ごしている。

 

 

 

休憩の終わりとともに照明が少し落とされ、

青木さんの第三章の品書きの朗読が始まる。

 

『雪は、

硬い氷になり

氷は 流れる水になる

 

花びらを撫でていた

白と紅を、混ぜあわせるように

 

懐かしいあたたかを思い出す

かじかむ指に 息を吹きかける

 

流れる水は凍らない

白のなかにひと筋の川

 

薄明のなか

紅は下がっていく

ひとつ、ひとつと重なり

やがて満たされる

 

 

目を閉じてひろがる

色に名前をつけたら

朝いちばんの鳥が羽ばたいた』

 

 

青木さんは、春に向かう躍動感のあるリズムでクラシックギターを演奏した。

春の喜びや軽快さが感じられる。

 

両手のひらの大きさもある、朴の葉がそれぞれに配られ、

笹の葉に包まれた『芽吹きのおこわ』を夕顔さんが葉の上にサーブする。

笹の葉を開くと、そこには春が。

三角形に握られたおこわには瑞々しい菜の花、ほのかな山椒の香り。

包まれた笹の葉を開く動作は、花が開き、内と外が交わる景色。

春の訪れの気配に思わず口角が上がる。

最後の料理となるやわらかなおこわを噛み締めた。

 

 

食事が終わりテーブルの上が片づけられた後、

夕顔さんにより一人ずつに桜の小枝が配られた。

花が開いた桜を皆じっくりと手に取って眺めた。

まるで懐かしい春を思うような時間。

 

照明が明るくされ、最後に内山さんが淹れた珈琲『kajitsu』が出された。

花の香りや果実の鮮やかさを重ねてブレンドされている。

フローラルな香りにさわやかな酸味が飲みやすく、春にふさわしい一杯。

珈琲を飲みながら、それぞれ同じテーブルの人たちと話をするなどして過ごす。

演奏を聴きながら心地よい余韻に浸っていた。

 

最後に三人からの挨拶があった。

内山さんは、

「最初静かだったお客さんが、

会が進むにつれ緩んでいく様子を見るのが嬉しかったです。

今回このように自分が夕顔さんの料理をサーブして黒子に徹することが、

普段このお店をきりもりすることとは正反対のことで、

こわくて緊張することでした。」と話した。

そんな内山さんに夕顔さんは、

「内山さんは、私と青木さんの二人とお客さんを繋いでくれる存在であり、

日々このお店の空間を作っている内山さんだからこそ

出来る役割だったと思います。」と話した。

三人が共に信頼しあっていることが伝わってきた。

それぞれの役割を全うして笑顔で皆の前に並んでいる姿はとてもかっこよかった。

 

「この食事会では、持って帰れるものは何もなくて。

音楽は流れて、料理はなくなってしまう。けれど、消えるから美しい。

この食事会は、例えるなら美術館のようだと思います。

美術館は基本的に作品と一対一で向き合う場です。

そこで感じたことを持ち帰って、それぞれの生活にかえっていく。

この食事会もそういった経験となればと思います。」と青木さんは話した。

 

 

思い出や記憶があることで、救われたり、強くいられたりすることがある。

例えば、旅行から帰って、次の日から仕事や家事に追われる日々でも、

非日常を過ごした楽しいひとときを思い出すだけで、日々を支えられる。

そういったことが、誰にでもあるのではないだろうか。

 

『言葉からひろがる』、料理と音楽に向き合うことで

冬の景色から春へ向かう季節の移り変わりを感じることができた豊かな時間だった。

毎日がこの食事会のような日々には、中々なれないかもしれない。

けれど、なれないからこそ、心に温かく灯るのだろう。

 

 

文章 / 会場写真:米澤あす香

料理写真:名倉哲

 

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言葉からひろがる / 如月

料理と言葉 / 企画 :夕顔

音楽と言葉 :青木隼人

場と珈琲:1ROOM COFFEE

 

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