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花屋








わたしがうまれた時から両親は花屋を営んでいる

ふたりの出会いは花屋だったそうだ

子供の頃の記憶には

草いきれに 花の甘い匂いをまぜたような空気がただよう

母の手も父の手もそのにおいが染み付いていた

洗ってももう落ちない かすれた黒緑色の植物ヤニのついた手

働く手

小学校高学年くらいから高校を卒業するくらいまで、

家族の夕飯の支度はわたしの役目だった

米を研ぐのとお茶を入れるのは祖父がやった

祖父と、5つ下の妹と、父と母と自分の分

店が終わるのを待つとおそくなってしまうので わたしたちは先に食べた

よろこんでもらえるのが何より嬉しかったし、

特に苦痛を感じる事もなく

日々のこと のひとつだった


でも高校生の頃、

急に嫌になって「もうつくりたくない」と両親に言ったことがある

父は「もうつくらなくていい」と言った

母は やさしい言葉をかけてくれたように思う

すこし間をおいて、また再開したのだけど

しばらく父は わたしの作ったものを食べてくれなかったことを覚えている


わたしは、なんでだろう? とやっぱり悔しかったけれど、

父の働く手が、その理由なんだと思う


父が亡くなってもう何年も経つ

母は、今も店にたつ

妹もその花屋を手伝っている






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